「Myunsic Re/cordsが選ぶ、2018年の年間ベスト・アルバムTOP25」第12位!
バブルガム・ベース界の代表プロデューサー、Sophie こと Samuel Long。
編集盤「Lemonade」から3年、待望のファースト・フル・アルバムは、ポップにねじれた IDM(= Intelligent Dance Music)とも言うべきストレンジ・エレクロ作に。
バブルガム・ベースとは
私の友人の中には、2014年ごろ、私が「バブルガム・ベースっつーあたり、今後キそうよ」って言ってたの、覚えてる人、いますよね(笑)。けっこう、回したりもして。
最終、世の中的にも、私の興味の持続性としても、あんまコなかったんですけど(爆)。
えー(笑)、「バブルガム・ベース(Bubblegum Bass)」というジャンルが局所的に存在しまして、、90年代の王道ユーロ・ポップ(Spice Girls とか Aqua とかね、Me & Myとかさ、有象無象のあのあたり・泣)から(海外目線で見た)J-ポップの、風船ガムのように「甘くて」、、「俗っぽくて」「安い」(笑)キャッチーなメロディーをひとひねり。
ヴォーカルは高く変調させつつ、足元は10年代のベース・ミュージック・マナー。
という、聞くだに「変」(笑)な界隈が、エレクトロ・ミュージック好きの間で騒がれてたことがありました。
「局所的」と言うのは、バブルガム・ベース=PC Music レーベルと言うくらい、シーン自体が、思いのほか広がらなかったからなんですけどね。
PC Music はイギリスのレーベルで、A.G.Cook によって 2013年に設立。
今回 12位の Sphoie は、このレーベルの中心人物の一人です。
「バブルガム・ベース時代」の Sophie
「バブルガム・ベース」のイメージを掴みやすいように、A.G.CookとSophie の2人によるスペシャル・ユニット(笑)QT の2015年の音から。
Sophie と A.G.Cook は、「インターナショナル・タノシイ・サウンド」でおなじみ(笑)、やはり、こちらも J-ポップの影響が大きいイギリスのグループ Kero Kero Bonito(当ランキング第3位!)のメンバーと芸大での友人だったそうで、Perfume や きゃりぱみゅ などの中田ヤスタカ仕事が大好きだったみたいですね。類は友を呼ぶ(笑)。
Sophie 単体では、こんな感じ。
「PC Music」の活動の、特にこの頃の特徴は、楽曲を全部、無料でネット公開する方針を持ってたってことなんですよねー。私もバシバシ落として聴いていました(笑)。
当時は、新しい時代の活動のあり方だなー、って感じてましたね。2019年現在だと、まあ普通になってきてますけど。
この「Lemonade」なんかを含むトラックをまとめた編集盤としてリリースされたのが、2015年の「Product」。
まあ、基本は、全編「Lemonado」のイメージです(笑)。ザ・バブルガム・ベース!
メジャー仕事
その後、メジャーな仕事も請け負うようになりまして、例えば「Product」と同年の2015年には、Diploと共同プロデュースで、Madonna の姉貴のプロデュースをやってます。
あと、安室ちゃん+初音ミクの曲もやったりしてます。
他にも、Charli XCX も手がけたりとかしてまして、まあ、大きい仕事もやってた訳ですが、、私自身は、この辺の仕事は、まあね、、みたいな感じで(すいません、、泣)、特別、気に入ったりはしなかったんですよね。残念ながら。
もともとポップ要素を引いて来ていた際の「あえてやっている面白さ」を、最初から「メインストリームにポップ」な中に置いてみた、、ということになる訳ですが、、結局、彼のサウンドの特徴、「らしさ」が、メジャーな王道ポップのイメージに埋もれてしまって「普通」にしか聴こえなくなっちゃうなー、、。と。
微細なズレを提示することで、「分かる人には分かる」形で提示してきた「シャレ」が、十分に「効いて」ないように感じるんですよね、、このあたりの仕事って、、。
そんな感じだったので、私の関心も自然とフェイド・アウトしていった(泣)というのが、数年前の話です。
ファースト・アルバム「Oil of Every Pearl’s Un-Insides」リリース!
、、そこから3年。
最近、活動の話も耳にしないなとー、思っていた 2018年に、遂に新作をドロップ。
以上のような流れから、そこまで期待もしてなかった訳ですが、、これがまた、すごいものを出してきました!(笑)
そして、それが今回の12位ですから、何が起こるか分かりません!
(ここまで前置き!!長い!!笑)
拠点もUKからLAに移しての今作。
冒頭3曲連続でシングル・カット曲が並ぶ、という展開なんですが、まず冒頭がこれ。
これまでの、ある意味、記号的な表現方法で、匿名的なポジションから作品を作っていたところから、「本人らしさ」を全開にするのだ、という力強い表明。まず、ここでやられる、、(泣)。
Sophie という女性の名義を使っていることにも初めから込められていたのでしょうが、、アルバム1枚、この方のクィアネス性が爆発した内容になっており。
(クィア [Queer] は LGBTQの「Q」。性的なあり方が揺らいでる人の総称です。もちろん、現代においては「クィア」という言葉は、ポジティヴな認識として使われる訳ですが、、もともとは「変態」という意味で侮蔑的に使われいたものを反転させた言葉であることにも留意を。)
IDM!!
サウンドのイメージとしては、この1曲目は完全な例外で、以降はこうなります(笑)。
アルバムでは途切れることなく、次のトラック③に突入。
性について、肉体について、心について、、他者からの眼差しのあり方としても、自己認識のあり方としても、人によっては違和や困難も強くあるであろう実存のあり方、、それを、ねじれたエレクトロニカで表現しているアーティストとして、ヴェネズエラの Arca のことを真っ先に思い出したのですが、、Sophie の場合は、もともとやって来たバブルガム・ベースのポップさも混入してくることにも「この人」が表現されていたんだなー、、とガツンとやられました。
この ⑧「Immaterial」のようなカラフルなポップさや、上の ①「It’s Okay to Cry」での語りかけるようなバラードあたりは、クィアのアンセムにもなるんじゃないか、という、力強いメッセージを伝えてくれる訳だけど、、こういった、より伝わりやすいであろうスタイルは、この2曲だけで、ハードで「いびつ」なビート・サウンドがアルバムの主体であるところに、この人の「音楽家としての本質」が現れているんだろうと思う。
「Oil of Every Pearl’s Un-Insides」まとめ ~「許し」と「解放」の爆発
「自分自身を見せたい / 見せたくない(見られたくない)」という葛藤の中で、何をどこまで、どう表現するのか?というのが、ある種の「芸術家」の表現のあり方のコアにある問題系なのだと思うんだけど、、今作の、これまで隠してきた(のであろう)「真の自己」とも言える部分を解放した時の輝きと、そのパワーには本当にやられました。私は。
もちろん、これは「芸術家」だけの問題ではなく、誰の心にも多かれ少なかれあることであり、誰にとっても重要なこと。と、私は捉えているポイントです。人生を生きる上で。自己の許し。解放。
今作では Sophie ことSamuel Long という人の「解放」と、そのエネルギーが「ビート・ミュージック」という形で大爆発していて、ファースト・アルバムとして、これを出せたということ、本当にリスペクトです。人として。
しかし、それは一人の人間のパーソナルな表現ゆえのことであって、これこそが、純粋な「アート」のあり方の一つだと思います。(それは時に非常に先鋭的にもなり、、それゆえ、その表現の軌跡を追うのは、それなりにしんどいところもある、、。かもですけどね。)
個。、、解放! エネルギー!、、すげー! リスペクト!! いい!!
(↑強いパワーを浴びて言語能力が落ちている・笑。)
以上です(笑)。
[2021年1月31日 追記]
2021年1月30日、ギリシアはアテネで、お月見中に高所から落下する事故に遭い、亡くなられたとのこと。享年34歳。ショックです。本当に悲しい。
心よりご冥福をお祈りいたします。
*第13位はこちら!