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Brief Inquiry Into Online Relationships / The 1975 (2018) レビュー

Music
Brief Inquiry Into Online Relationships / The 1975 (2018)

 

イギリスはマンチェスターの The 1975、2年ぶりのサード・アルバム。邦題「ネット上の人間関係についての簡単な調査」。

私にとっては、「まさか」の11位!

 

今回の「Myunsic Re/cordsが選ぶ、2018年の年間ベスト・アルバムTOP25」のアルバム選定基準として、「2017年12月〜2018年11月の期間にリリースされたアルバムが対象」という項目があるんですが、こちらのアルバム、リリースが11月30日。

いやー、もう、ギリギリで今から聴くのも時間ないし、今回は(対象外で)いいかなー、、と、日和った気持ちでいっぱいになりながら(笑)、「一応軽くでも」と聴いてみたところ、驚きの素晴らしい作品で。これは、年の最後の嬉しい誤算でした!

 

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The 1975 とは

デビューは2013年。

ファーストはイギリスで、いきなり1位になってましたし、それこそ「一応」耳に入れていました。

2013年の 1st「The 1975」より。④「Chocolate」。

まあ、ポップですねー。チョコは「草」のことでっせー(笑)。

 

特にこの時期には、割と若い女子人気の高さが騒がれてて、「アイドル・バンド」的な見方もされていたように思います。

アルバム自体、良曲が多くて、特にポップでキャッチーなメロディーが秀逸だなー、とは思いましたが、、まあね、、って感じで、私は、特にシリアスには聴いてなかった感じでしたね(すまん)。

 

で、3年後のセカンドでは、持ち前のポップさに「80年代感」を取り込んだサウンドで、イギリスのみならず、アメリカでも1位を獲得。世界的に売れました。

2nd「I Like It When You Sleep, for You Are So Beautiful Yet So Unaware of It」。2016年。
邦題「君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。」最近珍しい邦題付き(笑)。まあ、その気持ちは分かるタイトルの長さ(笑)。
、、より、③「Ugh!」。

引き続き上手なソングライティング。パフォーマンスにも華があるし。

 

アルバムにはファンキーな曲もあったり、「80年代」要素を導入することで、前作の繰り返しにしない姿勢や良し、、とは思いつつも、、どうも、マンチェのバンドにしては、音に尖りが足りないような感じを受けてしまい、、特別マイナスな印象を持ってたりはしないものの、まあね、、って感じで、私は、特にシリアスには聴いてなかった感じでしたね(すまん・再び(笑))。

 

絶頂からの転落、、からの、、

ありもしない Taylor Swift との交際報道で騒がれたり、、「有名になりたい」という自らの思いを超えるスピードで、急にセレブリティとして人気を集め、大衆から日々途切れることなく注目されることになってしまったことからくるストレスなども大きかったようで(デビューから、たった2、3年での騒ぎでしたからね。)、この辺りの時期になると、ヴォーカルで中心メンバーの Matthew Healy は、インタビューでも「仲間が大好きだと思ってたけど、ドラッグが好きなだけだった」というような発言も出るほどに、薬に耽溺していたとのこと。精神が不安定であることも、おおっぴらにしてましたしね。本当にボロボロになってしまっていたと、、(泣)。

 

、、というような流れで、「Matthew 君がステージで最初から最後まで号泣した、、」といった、セレブとしての「オッド・ニュース」なんかも遠目に見ながら、、「私の趣味の境界線の外」に、うっすら置いていたグループ(笑)だった訳です。

今回の11月30日のリリースもメディアでは騒がれていて、自分から意識しないでも目に入って来てたのですが、「対象外でいいかなー」(笑)くらいのテンションだったんですね。

 

で、「一応」で聴いてみたところ、、これが、、ほんとに、いい作品でした!マジで、すまん!!(泣)

今回のTOP25 の中で、当初の期待値を裏切ってくれた、、という意味では、この作品が1番だと思います。初聴きで、不覚にもうっすら泣きましたよ、、。(←ほんとに(泣)。)

 

「Brief Inquiry Into Online Relationships」のサウンド

とにかく多様。

ニュー・ウェイブ的な、お得意の80年代要素のみならず、エレクトロなもの、ジャジーなもの、トラップを意識したのであろうもの、トロピカル・ハウス、弾き語りに近いシンプルな構成のもの等々、、非常に多彩な要素を入れており。

こういう多様なサウンドが詰まっている、、ということ自体、私の大好きなところなんだけど、、今作については、そのこと以上に、そういった多様性がありながらも、作品全体を通して一貫して感じられる、ある「ムード」にこそやられました。

 

アルバムに先立って、最初に発表されたのがこちら。

⑦「Sincerity Is Scary」。

1拍5連のリズムでジャジー。という、彼らのこれまでには無いトラック。
、、まあ、ここしばらく(やや古いけど)のトレンドを持ってきてる訳ですが(もろ好み!)、、それもさることながら、このムードのビューティフルさはどうしたことか!最高やん(泣)。

歌詞は「男女の友情問題」に関するもので、あんま映像と関係ないんだけど(笑)、まず、この曲の穏やかでピースなムードにやられましたね。端的にいい!!

 

③「TOOTIMETOOTIMETOOTIME」。

トロピカル・ハウス!
エレクトロな要素は過去作にもあったとは言え、、こっちも、この「穏やかなムード」に驚く。

人種・性別・文化が様々な人たちをフィーチャー。バックがレインボーなカラーになっているのは、LGBT へのメッセージでしょう。非常にダイバーシティ(多様性)を擁護する内容になってますね。

歌詞は、彼女に浮気を疑われて弁解する、、っつー、いつもの彼ららしい、普通のラブソングで、こっちも映像と歌詞は特に噛み合ってないんですが(笑)。

 

上にちらっと書いた「ステージでずっと号泣した」件では、ファンが応援のために「ヒーリー愛してるー」と叫んでくれたのに対して、「お前には俺を愛する資格はない。お前は俺のことを知らない。俺は君を愛しているが、俺を愛することはない」って怒鳴った、、っつー人ですよ。そこからのこの変わりぶりですよ。

 

「Brief Inquiry Into Online Relationships」から感じるもの

前作の後、ドラッグの使用も次第にヘヴィーなものに、、。

しかし「べつにそこまでパーティーに明け暮れていたわけじゃない」。「1万人とつながることとホテルの部屋でひとりきりになることの極端さが問題だったんだ。大勢の人々の承認と本物の孤独。ドラッグがあるとそれに対処しやすかった」とのこと。(「Rolling Stone」より。)

 

そう言った状態から、今作の制作に先立って、彼はカリブ海のバルバドスのリハビリ施設に入所。6週間におよぶ集中的な認知行動療法を受けた。とのことです。

「おれはひとりだった。もちろん、医師や看護師はいたけど、ほとんどは宮殿みたいなベッドルームでひとりきりだった。たくさん本を読んだし、いろんなことについて考えた」。(「Rolling Stone」より。)

 

今作は、タイトルが「ネット上の人間関係についての簡単な調査」というくらいで、昨今の世の中に対する批判的なメッセージも含んだ社会派の内容の楽曲も多いし、これまでと変わらずの皮肉もまじえたラヴソングも多いんだけど、、私は、そういった表層的な部分(もちろん、そこ、大事なんだけど)よりも、とにかくアルバム1枚を通して、この作品に「光」をずっと感じるのよね。

ビカーっとしたような強い光ではなくて、やわらかで穏やかな光。そこにやられて。

そこが、今作品の1番の「成果」のように、私は思うのね。

(これは、後になってから思ったことだけど、ジャケの基本真っ白なところにカラフルなドットが少しだけ、、っていうデザインも、何か、私の感じた「光」につながってくるような気もしてきます。)

 

これはね、ある種の悟りのようなものを体験して、初めて出てくる種類の表現だと感じるんだよね。

 

自分の心の、本当に自分でも見たくない奥底を見てくる「魂の地獄めぐり」とも言えるような作業をくぐり抜けて、初めて見えてくるもの。

「悟り」と言っても、何かが「分かったー」って、テンション高いようなもんじゃ全然ないのよね。トランシーな法悦、、、みたいなことじゃなく。

でも、これまで見えていたもの全てがらっと変わって、全く違って見えてくるような心の変化。視界の変化。

暗ーい洞窟のようなところをくぐり抜ける作業を、ずーーっと続けて、、そこをようやく抜けて、出口から最初は細く差し込んでくるような光。

着実に何もかも変わって見える・感じるようになるんだけど、、それって、そんな派手なことではなくて、、穏やかで、結構クールで静かな心持ちの中で、ただ「そうだよね」、、ってだけの感じだったり(笑)。

それを、すごい感じて。

 

彼の場合は、ドラッグを使うことで避けてきたことごと。それを、薬を抜く作業と同時に直視しきったのだと思う。(まあ、こういったことは、一回やったら完了!と言った種類のことではなく、継続し続けなきゃいけなくて大変なんだけどね。でも、一回「抜ける」「分かる」と、もう戻ることのない「理解」「把握」が体得される。っつーね。)

 

これ、すごいことですよ。ものすごい努力しないとできないこと。

それをねえ、ひしひしと作中ずっーーと感じまして。、、もう泣くよね(泣)。

Matthew、お前、よくがんばった。よく「乗り切った」なあ、って(泣)。えらい!(泣)

 

そこにまで至った経路や、当人にとっての意味合いなんかは全く違ったものであろうかと思うけど、12位の Sophie にも感じた、自己の「許し」と「解放」、、そして「そこから見えるもの」、、の、また別のあり方、、を、この作品には、すごく感じるんだよね。(それは、人それぞれ、一人一人、全く違うものなので、1つ1つが全て別の美しさを持っていて。、、でも、その底には、人として「共通する」ところがある。だからこそ「通じる」し、なお美しいんだよね(泣)。)

Matthew の場合には、そのことによって、静けさ、穏やかさが獲得された。という。(だからと言って、彼の元々持っていた「皮肉っぽさ」や「欲望」が損なわれてしまう訳じゃ無い、というところが、普通にちゃんと「本物」だと感じるところだし、本作の魅力の根源でもあるのだと思います。)

 

The 1975 聴いて、この種の感想を持てるなんて 200%予期してなかったから(すまん!)、これは、本当に素晴らしいものを聴かせてもらったなー。というところです。ありがとう、Matthew!

 

「Brief Inquiry Into Online Relationships」のサウンドについて、もう少し

えー(笑)、、この部分、言えば、もう満足、っちゃーそうなんだけど(笑)、もう少し音楽の話もしますか(笑)。

 

アルバムは、全15曲もあるんだけど、MVを切ってないトラックにこそ、今まで述べてきたような、静けさや穏やかさを感じるトラックが多いんだよね。

 

④「How To Draw / Petrichor」での、静かなアンビエントからブレイクビーツへの移行、しかも歌あり。(非常に良い!)

快楽的欲望と孤独感の間で揺れる、アコースティックで静謐な ⑥「Be My Mistake」。

良質なブリット・ポップ(Oasis感 !)を思い起こさせる、ラストの ⑮「I Always Wanna Die (Sometimes)」。「俺はいつも死にたい(時々)」(笑)。(「時々」が付いてくる感覚のニュアンスが最高(泣)。)

などなど、非常に素晴らしい。でもMVなし(泣)。

 

MV切ってる曲も、それぞれ本当に良い。

⑤ 「Love It If We Made It」。

トランプの差別発言やツイート(「おれはビッチを誘惑しただけ、起訴なんて怖くない」(泣)など)を、そのまま引用するなど「社会派」ナンバー。
しかし、その「怒り」の表現方法にも、ある種の静けさを感じる。

 

 ②「Give Yourself A Try」。

実質的なアルバム1曲目は、良メロディーでポップな「彼ららしい」トラック。
リフが Joy Division の「Disorder」そのままのところにマンチェ心が。(Joy Division もマンチェスターのグループね。)
「You’re getting spirituality enlightened at 29」。「29歳にして霊性を獲得、悟りを開いた」。自分で言ってます(笑)。
「自分自身に挑戦しよう。」「やってみないか?」

 

⑧「I Like America & America Likes Me」。

トラップ入ってますねー。そして「声をあげよう」。

 

⑪「It’s Not Living (If It’s Not With You)」。生きてる状態じゃない(君なしなら)。

John Lennon の「Happiness is a Warm Gun」と同構造の、薬を「君」に見立ててのラブソング。この曲調で(泣)。
自分はこれだけ、あれもこれも感じてるのに、周りに人は、それには一切気づかず(当然だけど)普通に振る舞い続ける(幻覚の)恐ろしさよ。
他のMVも引用したり、語りもメタ構造になってて、映像表現として非常に優れてますねー。80年代風ラストも面白く(笑)。
「抜けた」からこそできた、この表現の仕方でしょう。

 

まとめ ~ 「Brief Inquiry Into Online Relationships」の意義

このアルバムが出る前に Matthew が、「Radiohead の『OK Computer』や、The Smith の『Queen Is Dead』と同じぐらいの影響力のある作品にしたい」って言ってて。

出来は「Queen Is Dead」よりは、圧倒的に「OK Computer」側よね(笑)。

 

グローバライゼーションやインターネットの普及による、人間関係やコミュニケーションの接続/断絶、孤独、格差や、そこから生じる過去には顕在化してこなかった、新たな形の社会問題、、。

テーマは確かに「OK Computer」とも、バッチリ共通しているし、ロック・バンドがエレクロニクスを導入!というサウンドの見た目も「似てる」と言われてるところでしょう。(エレクトニクス云々は、60年代からThe Beatles にせよプログレにせよ、全然やってた訳で、私としては、あんまりピンと来ない指摘なんだけどね(笑)。)

 

ただ、「OK Computer」が悲観的でネガティヴな結論に向かっていくのに対して、今作は「それでも」人とコミュニケートして繋がろう、という希望「も」語ろうとしているところが、本当に素晴らしいと思う。

それも、もともとから「前向きー!」な人が言うんではなくて、直近で「絶望」のどん底に落ちて、そこから自力で(もちろん、ヘルプももらいながら)希望をつかんだ、ってことが分かるからこそ納得させられる、この言い方・この表現、っつー穏やかな強度があるんだよね、今作には。本当に素晴らしい。(←もう一回言う(笑)。)

(ちなみに、過去、結構「Radiohead 好きでしょ?」って言われること多かったんだけど、、残念ながら、一回も深くは好きになったことないのよね、トムの仕事(笑)。だって、いじけてるし暗いんだもん(爆)。)

 

とまあ、内容的に社会派な部分も多く、そこについても、しっかり語るべきアルバムであると思うんだけど、、私としては、どうしても、作者の実存のあり方、と、その重みの方を手前に感じずにはいられず、、本当に Matthew が乗り越えてきたことの重みと、その先に見出した解放の光を作品という形に昇華することができた彼に、拍手を送りたいですね。

自分以外の、人の成長を「客観的に記録する」のではなく、内側から「再体験できる」という、アートの力を感じることができる、という、非常に素晴らしくて、私としては、とても、うれしい体験をさせてもらうことができる作品でした。

 

2019年の6月に今作の続編となるアルバムをリリースすべく、制作に入っているとのこと。

「この後」がどうなるのか、楽しみに待っています。

 

最後に、また「Rolling Stone」からの引用で締めたいと思います。

ヒーリーはマリファナより強力なドラッグを使用せずに1年を乗り切ったことに慎重でありながらも誇らしさを感じている。「簡単なことじゃないよ」ヒーリーは言った。「出来ない人にどうこう言うつもりはないけど、せめて努力しないと。そうしないと、あまりに悲惨な結果が待っている」

えらい!よく頑張ってる!(泣)応援してるよ。

一緒に頑張ろう!!(笑)

 

P.S. 「ロックじゃない」評価の話、再び(笑)

この作品も、21位の Arctic Monkeys のある種の評と同様、「ロックでは無くなった!」「おとなしくなってつまらない」「ラウンジ・ミュージックだ」等、言われてたりもしてるんですよね。

 

まあ、私は初めから「ロック」じゃ無くてもOKだからあれだけど(笑)、、ロックって、もともと多様な要素を取り込んできた長い歴史をすでに持っていて、これがロックじゃ無いんなら、過去、その文脈では「ロックじゃ無い」って言われそうな名盤が山ほどあるからさ。「ロック」が好きなら、そういうのも聴いてみようよ(笑)。世界が広がるからさー。多様性、って、そういうことよ(笑)。

 

あとねー、なぜかロックじゃ無い、、ってことを言うために「ラウンジ・ミュージックだ」って言葉が、悪口として、どうも良く使われることが多いみたいなのよね。主に英語圏でかなー。

、、逆に聞いてみたいんだけど、そういうあなた(笑)、ちゃんとラウンジは聴いとるのかね??(笑)あれはあれでストレンジで奥深くて豊穣な世界ですぞ。まあ、もちろんプレ・ロックの世界の話だから「ロックじゃ無い」ちゃー、もちろん、そうなんだけどさー(笑)。(←悪口として、うまくいってるのか(笑)。)そういうのも、一回真剣に聴いてみるといいよ。世界が広がるからさー(笑)。多様性、って、そういうことよ(再び・笑)。

 

、、とまあ(笑)、「〜じゃ無いからダメ」って言うより、「〜だから、素晴らしい」って評がしたい気持ちでいっぱいでおります!(笑)

 

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