DJ についての基礎的な部分から解説をしております【DJの基礎】。第2回です。
「第1回」では、人々を躍らせ続けるために、DJは「音楽をノンストップで『つなぐ』(MIXする)」のだ、というお話をしました。
さて、音楽をノンストップでミックスして「つなぐ」ための、一番基礎になるのが「ピッチ合わせ」と呼ばれる技術です。
私もそうなのですが、なんらかの楽器をやったことがあって、その後、DJをやろうとする人は、おそらく、初めに必ず「ん??」ってなるのが、DJ業界で言う「ピッチ合わせ」という言葉の使い方についてなんじゃないかと思います。
この「ピッチ合わせ」という技術についての具体的な解説の前に、今回は、まず「ピッチ」「テンポ」といった言葉のお話から始めてみましょう。
「ピッチ合わせ」とは?
「ピッチ」の「普通」の意味 = 「音程」
通常、世の中一般、音楽を語る上で「ピッチ(Pitch)」と言えば、「音程(音高)」という意味ですよね。
平均律で調律された楽器だと「ドレミファソラシド」と並んでオクターブだよ、というあれです(笑)。「レ」は「ド」より、音程が「1音(全音)高い」とか、「E」は「F」より「半音低い」とか、、「音の高さ」=「音程」のことを英語で「ピッチ」と言います。
ギターやベースなどなど楽器をやったことがある方は、各弦ごとに「正しい音程」に合わせていく作業としてチューニングを行いますよね。チューニングによって各弦ごとの微妙な音程のズレを調整して「ピッチを合わせる」。
各楽器ごとのチューニング、ピッチが合うことによって、バンドなど複数人数で演奏しようとした時などには、気持ちよいハーモニーを生むことができるようになる訳です。
「ピッチ」=「音程」というのが、世の中で通じる「普通の意味」です。
では、DJ界で言う「ピッチ(Pitch)合わせ」とは?
ところが、DJ 界で「ピッチ合わせ」と言う時は、「音程(チューニング)合わせ」の意味ではなく(!)、なんと「テンポを合わせること」の意味になります!(一部から、「えーー?!」という声が聴こえてきそうです。笑)
「テンポ」とは「楽曲の進行速度」のことですから、「音程」とは全く別の要素ですよね。
この辺、多くのDJにまつわる文献や入門書でも、手放しで「ピッチ合わせ」って言葉を使っていて、知らないと、「ん??」ってなるところなんすよね。
なぜ、DJ 界では「テンポを合わせること」を「ピッチ合わせ」と言うのか?
この、ねじれ現象(笑)は、何故、起きているのでしょうか??
第1回でご紹介しましたとおり、そもそも、DJ という営みは、「ターンテーブル(レコード・プレイヤー)2台+ミキサー」という機材の組み合わせで始まりました。
第1回でも触れましたが、スタート当時は、今のように専用の機材など存在していません。
そんな状況の中でも、お客さんの「ノンストップで止まらない音楽の中で、ずっと踊っていたい!」というニーズに答えるために、様々な「K.U.F.U.」((c)ライムスター)=「工夫」がなされました。
その1つが、ピッチ・コントローラーの使用です。
レコードは、文字通り「アナログ」な存在ですから、デジタル・データのように、いつでも定まった挙動をしてくれるとは限りません。盤の状態、温度や湿度、機材の温まり具合などなど、もろもろの物理的な影響を受けて、回転する速度(曲の再生速度)が一定になってくれないものです。
本来想定されている速度よりも再生速度が早くなってしまうと、音程(ピッチ ← もともとの意味)が高くなってしまいますし、逆に再生速度が遅くなってしまうと、音程は下がってしまいます。
録音時の「本来の音程」でリスニングするためには、「再生速度の調整」を行うことが必要です。
ピッチ・コントローラーは、様々な原因で発生する「音程のズレ」を補正する機能として、ターン・テーブルに装備されています。
ピッチ・コントローラーで速度を調整し、2曲のテンポを合わせられる!という発見
お客さんの「ノンストップで止まらない音楽の中で、ずっと踊っていたい!」というニーズに答えるため、曲が途切れないように、同時に2つの曲が同時に鳴っている状態でミックスするには、2曲の速さ(テンポ)を揃える(「ビート・マッチング」する)必要があります。
そこで、目をつけたのが「ピッチ(音程)を調整するために、再生速度(曲の速さ)を調整できる」という、ピッチ・コントローラーの機能です。
ピッチフェーダーを「ピッチ(音程)の変更」のために使用するのではなく、はじめから「曲の速さの調整」のためのものとして使おう!という逆転の発想が生まれた訳です。これこそ、まさに「K.U.F.U.」(笑)ですね!
その後、DJ を行う上では、ピッチ・コントローラーは、もっぱら「曲の速度(テンポ)を合わせるため」に使われるようになります。
DJを行う上では、「テンポを合わせる作業」は「ピッチ・コントローラーで調整しながら行う」こと。そこから、「テンポを合わせること」を、コントローラーを使って「ピッチを合わせる」と、言い習わすようになった。という訳ですねー。
もともとのコントローラーの使用法を逆転の発想で使用しているので、言葉も逆転しちゃってる。ということですよね(笑)。面白いものです。
PCDJコントローラーなどでは
このコントローラー部分の名称が、はじめから「テンポ・コントローラー」だとか「テンポ・フェーダー」と記載されていることが多いように思います。
もはや、機材として、「ピッチのコントロールからの逆転」という必要もないっつーことですよね。シンプル(笑)。
「マスター・テンポ」とは?
では次に、「マスター・テンポ」というCDJやPCDJで使用できるようになった機能があるのですが、この言葉についても考えてみましょう!
ターン・テーブルの話、再び
ここで、話はタンテのピッチ・コントローラーについてに戻ります。
2つの曲のテンポを合わせる(ビート・マッチングの)ために、本来「音程(ピッチ)」を調整するためのピッチ・コントローラーを使って、テンポを変更するようになった、という話でしたよね。
テンポを調整するためにプレーヤーの再生速度を変えているのですから、その際には音程(ピッチ)も、当然変わってしまいます。
テンポをあげれば音程も上がりますし、テンポを落とせば音程も下がります。
これ、変更がわずかであれば、さほど気になりませんし、もともと調性感の薄いトラックなんかだったら、変更しても聴いてる方もよく分からんまま(笑)進んで行けたりして、問題にならなかったりするものなんです。
、、が、変化が大きい場合や、みんなが良く知っている、特に「歌もの」だったりすると、音程がオリジナルから上がったり下がったりが、即「違和感」につながってしまうんですね。
ヴォーカルの声の変化が気持ち悪かったり、オリジナルのキー(調性)のイメージがしっかり心に根付いていたりしていると、ちょっとした変化でも気持ち悪く感じちゃう。(このことを逆手にとって、わざとに極端にキーを上げ下げする手法もあります。)
このことは、アナログのレコードを扱っている際には、物理的に避けられない「宿命」でした。
「データ」を扱うようになったCDJ & PCDJ 以降
しかし、CDJ の登場以降、デジタルなデータで楽曲を扱うようになり、機械的な処理が可能になりました。
その恩恵の1つとして、「テンポを変更しても、音程が変わらない」という処理もできるようになり、みんなの知っている歌モノでも、違和感なくビート・マッチングができるようになっています。
音程を変えることなく、テンポだけ早くも遅くもできる。
その機能の名称が「マスター・テンポ」なんですね。
繰り返しますが(笑)、「テンポを変えても、音程が一定になる機能」、、です。
「テンポが一定」なのではなく、「音程の方が一定」なんです(笑)。
でも名称は「マスター」の「テンポ」(笑)。「マスター」の「音程(ピッチ)」ではなく(泣)。
ここでも、直接的な意味と言葉がねじれているんですよね。
Serato だと同じ機能のことを「キーロック機能」といっていますが、そっちの方がストレートで分かりやすいと思います。
とかく、アナログ時代の名残りがあるため、DJ機器 周りの言葉使いの中には「ねじれ」が存在する。と、いうことですね。
まとめ
DJ という営みには、アナログ機器を工夫して使用したところから始まり、現在のスタイルに至るまでの「歴史」が詰まっており、その歴史の中で、結果として、言葉に、ちょっとした「ねじれ」も存在している。という、お話でした。
アナログ時代からの長いキャリアをお持ちの方には、例えば「『ピッチ合わせ』という言い方こそ本来」というコダワリのある方もいらっしゃるかと思いますし、PCDJから始めた人の中には「『テンポ合わせ』っていう方が自然」と思われる方もあることでしょう。
私としては、若いもん(笑)は、年長者の想いに、しっかりリスペクトを払い、先輩にあたる方は、新たな時代を歩む後進に優しい眼差し(笑)を送っていただけますと、ありがたいなー、うれしいなーという思いです。ぴーすが第一(笑)。
両方の言葉使いを理解して、「言葉」の制約を超えて、自由に楽しく生きたいところですね。
どうぞ、よろしくお願いします(爆)。
DJ 界においては、「ピッチ」「テンポ」という言葉は裏返って使われる部分がある。
- 「ピッチ合わせ」→ テンポを合わせること
- 「マスター・テンポ」 = テンポを変更しても「ピッチ(音程)」が一定になる機能